少し、学生生活に慣れてきたところで、リンカーン・カレッジから新入生宛にフォーマル・ホール(Formal Hall)の招待状が届きました。カレッジ長(Rector)主催の夕食です。第2話でもご紹介させていただいたように、リンカーン・カレッジの食堂は、まさにホグワーツのGreat Hallと同じようなレイアウトで長い机が3列並び、食堂の奥の高台には、教授・フェローのためのひな壇、ハイ・テーブル(High Table)があります。このレイアウトは、学生の上に教授やフェローがいるというヒエラルキーを示す、古い伝統の名残です。
フォーマルな服装でワクワクしながら、食堂に入り、予め伝えられていた席次どおりに着席します。私は運良くハイ・テーブルでした。同様の専門分野の学生・教授・フェローが近くに座れるよう考慮した席次だったのですが、たまたま、政治・外交分野を専門にする学生はハイ・テーブルでした。大学の招待があれば、大学院生、卒業生は年に1回ハイテーブルに座って食事をすることができます。また、大学やカレッジの招待でゲストとしてハイ・テーブルで食事することも可能です。
全員揃い、教授とフェローがガウンを身にまとって厳かな雰囲気で食堂に入り、着席すると、カレッジ長がいきなり、裁判官が叩く木槌のようなものをガツン!と鳴らし、その音を合図に全員起立します。ラテン語でお祈りが捧げられ、それから料理と飲み物がサーブされます。バトラーが飲み物を注いでくれ、またマナーの悪い学生はバトラーからお叱りを受けます。バトラーは大変誇りのある仕事で、プライドを持って仕事をされている方がほとんどです。
ハイ・テーブルでの食事の居心地はというと、正直落ち着かないです。食事している姿を四方八方から見られているような気がして、ソワソワしてしまいました。私の近くにカレッジ長が座っていましたので、質問攻めにあい、食事どころではなかったのもいい思い出です。教授・フェローの皆様は大変フレンドリーで、緊張している学生にも、みんな最初は緊張するけど、すぐ慣れるわよ!と言っていました。
食事が終わると、またガツン!と木槌を学長が叩きます。ものすごく音が大きいので、どんなにうるさくても一瞬でホールが静まります。ダンブルドア教授の一声のような感じです。再び、ラテン語でお祈りが捧げられ、ハイ・テーブルの教授・フェローが食堂から立ち去るのを学生は静かに見届けます。学生は緊張が溶け、自由タイム。各々、大学院生用の談話室(MCR)に移動し、ワインを思う存分飲んだり、スナックを食べたりしました。カレッジの遊び心だと思いますが、怪しい石像が牢屋のようなところに閉じ込められています。リンカーン名物ですので、カレッジの中に入る機会がありましたら、探してみて下さい。
最初のフォーマル・ディナーの紹介でした、この後にオックスフォード在籍期間中に4回ほどフォーマル・ディナーに出席しましたが、ハイテーブルに座ったのはコレが最初の最後です。一生忘れられない経験でした。
第5話では、大学院コースの紹介をします。